命 名 Auch! アウチ!
江戸時代の例として『北斎漫画』からもわかるように、漫画は元来人の本質を、その特質を誇張してわかりやすく表現しようとしたものであったと言える。また近代日本においてはチャールズ・ワーグマンが1862年から1887年の間に横浜で出版していた『ジャパン・パンチ』が徹底した観察眼で人々の生活を詳細に描写したものとしては他に例を見ないものであると言われている。一方で1コマの漫画=カリカチュアに対しマンガは文章というひとつの表現を超え、絵画という表現とともに、思考と感情を融合しさらなる表現の形象を追及しているものとも見ることができる。その時間の形成が現代のスピード感にも適合し「わかりやすさ」が増していったようだ。
“Ouch!(アウチッ)”は英語圏で困ったことが起きた時に発する「疑心語」である。しかしこれを発するときとは実は重大な問題のときではなく、単純な驚きに過ぎない。人生において重大な事件と思われることも、実は良く考えてみると大変な問題ではないと言うことがある。そんなことをこの音を発することによって思い出し、言わば厄払いをするのではないかとも考えられる。
擬音語、擬態語、擬心語はマンガとともに発展した手法と言えるが、その手法を用いて、この“アウチッ”と言う音を「あう」と「ち」に別けて漢字に置き換えてみると、「会う地」「会う血」等が浮かび上がる。つまり、これは出会う場であり、結束の場であるように読み取れる。
さらに「地」「池」「智」「血」と展開してみると、「青」の元の文字「」は「赤から生まれでた青」という意味がある。つまりエントロピーの高い熱の状態を示す「赤」から生まれた実体「青」であり、霊と体という対極がその維持に顕在し有機体の初源としてあるといえる。
これはルネサンスにおける聖母マリア像の「赤と青の対比」にも顕著に表れている。同時に青は理性であり赤は感性とすると、絵と言語の融合を目指すマンガの表現にも合致する。その様な両極を持ち合わせる「原型」=「」に「血」を入れる、つまり生命を吹き込み展開することで原型がさらに有機的に展開し更なる円環を作り出す。それは「」に隠され「円」が暗示しているとも言える。
そしてその上にある「三」は「霊」「魂」「体」でありそれを貫く「自我」が全体を統一へと導いているように見える。
アウチ! [aut ] を表音そのままに、あらゆる始まりを示すα=Aにアクセントを添えて、人の原型にアクセントで誇張表現するマンガと言う手法によって、自分の弱い、まずい=「アウチッ!」実は「自らの最大の長所であり武器であり、個性である」ことを表し、その動きによって両極の対立を循環へと導くものとして“Auch! アウチ!”は相応しい。
付記:“Blaue Reiter (青騎士)“は1912年にカンディンスキー、マルク、マッケ、クレー等が新たなる表現を求めて活動を開始し刊行した芸術雑誌であるが、これを「氣士」としてまた「青記志」として、人の原型=内在を伝えるものとしてのアウチ!の挑戦としたい。
2006.3.1 マンガ・プロダクション アウチ! |
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